よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

バーボンと大吟醸

名前を覚えることが苦手だ。漫画や小説を読むとき、映画を観るとき。仕事で人に出会うとき。あるいは道具やメーカー。それはもういたるところに名詞が出てくる。登場人物を記号と捉えている。普通名詞が出てこないなんてのはザラなのだが、先日「柔軟剤」が出てこなくて「洗剤と一緒に入れるふわっとする液」と連想ゲームのようなクイズを出す有り様。名前が出てこないで「ほら、あの、えーと、アレよアレ」と言っているおじさんたちを嫌悪していたのに、その最前線にいる。そんな状況なのに、固有名詞を覚えられるはずもない。まして2時間後には忘れていい人物名なんて海馬に定着させられるはずもない。

映画のタイトルが思い出せず、キアヌ・リーブスも思い出せなければ、ジョン・ウィックも思い出せなかった結果、「ハリウッドの長髪長身の男前がすごいアクションする殺し屋の映画」とgoogle先生を試す始末。Google先生はそれでも僕に答えを教えてくれる。あまり甘やかすな。

 

自分の苗字も名前も特殊なせいか、初見で正しく呼ばれたことがない。現代において匿名性が皆無。一方で覚えられやすいから、相手は僕の名前を知っているが、僕は相手の名前がわからないという経験が多くある。自分の名前自体は気に入ってはいるのだが、この辛さは同じ珍しい名前を持つ者しかわからない。みんな見えるところに名前のタトゥーでも彫ってくれ。

そういうわけで以前から名前と言うものが不思議に思えていて、中学生の頃に「もう名前なんて識別できればいいのだから、番号だっていいじゃないか」と思っていた。

 

先日名前について、スピッツの美しい鰭を聴きながら酒を飲んでぼんやりと考えていたところ、そういえばコナンに出てくる黒の組織には酒の名前のキャラクターが出てきたことを思い出した。黒ずくめでスーツに身を包んだシュッとしたあいつら。コナンに明るくないので調べたところ、「ジン」「ウォッカ」と僕でも知っている名前が並んだ。「バーボン」「スコッチ」「カルバドス」というのも出てきた。そして偶然にも我が家にはこれらの酒が陳列してある。おお、なんだか親和性が高いぞ。よし、ということは、陳列している他の酒の名前もあるはずだ。「アイリッシュ」、「スコッチ」。お、あるある。もはや我が家にある酒がほぼ黒の組織なのではないか。通りで棚がシュッとしている。ここまでくれば棚にある他の酒の名前もあるはずだ。「ブランデー」ふむ、ないか。「モルト」ない。

じゃあと目をすべらせると鎮座する『大吟醸』。これはいいではないか!黒の組織の『大吟醸』。『冷やおろし』『特別純米吟醸』もいい。スーツではなく、ふんどしにねじりはちまきだ。ほぼクールポコがコナンと戦うのだ。これほど胸が熱くなる展開もないだろう。こんなにも格好いい名前がないとは。青山剛昌先生、「やっちまったな」。