なんだか暖かいなと思っていたら、関東では先日春一番が吹いたらしい。統計を取り始めた1951年以降、最も早いと聞いた。
雪下ろしが大変だと実家の母が言った。送られた写真では父が雪かきをしていた。
「音楽は記憶のインデックス」というのは誰が言った言葉だったか。中学の部活動を思い出す曲、当時はまっていたゲームの曲。音楽を契機として記憶が呼び起こされることがある。中学時分にはまった三国無双3の音楽は当時一緒にプレイした友人のことも思い出す。
そしてその逆もあり、ある状況下において聴きたくなる曲というものもある。
春になると聴きたくなる曲がある。sugarというバンドのchangesという曲だ。
これはかつて友人Uに教えてもらった。それだけははっきりしている。
細かくは覚えていないが、春に聴きたくなるということは春に教えてもらったのだろう。いつだったろうか。中学生の頃はバンプとかACIDMANを聴いていた。洋楽を聴いてもエアロスミスとかメジャーなものだったはずだから、高校生くらいような気がする。もしくは大学の入りたてだろうか。
「落ち込んだらこの曲をよく聴くんだ」
彼はそう言った。極端な猫背だった。偏屈で理屈っぽい彼はうじうじと悩むことはあれど、落ち込むなんて想像が難しかった。考えすぎて面倒臭くなることはあっても、こいつが落ち込むなんて、長い付き合いになっても新しい発見があるもんだ。小学校からの付き合いで、高校から学校の離れた友人に僕はそう思ったのを覚えている。
スピーカーからはBob Mouldがchangesと叫んでいる。ローファイなギターが、それでも綺麗に聴こえてくる。確か振られた曲だと言っていた。
繰り返されるchangesが、春という変化を促す季節に合うのかもしれない。
彼とはもう10年近く会っていない。大学を2留はしているはずだが、卒業したのだろうか。相変わらず面白い文を書いているのだろうか。簡単なメールをしたことがあったが、あとで改めて連絡すると返信があってから5年は経っているはずだ。あいつはいつだってそうだ。そんな調子だから恐らくもう会うこともないだろう。それも不思議と寂しくない。相変わらず小難しいことを理屈っぽく言っていればいい。
おうい、元気にしているかい。それともどこかで野垂れ死んでいるかい。そう問いかけた言葉は行き場をなくして、暖かくなって鬱陶しいマスクにぶつかり、どこにも届かず消えていく。