よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない。

今回は、友人に宛てて近況の報告をしようと思う。

彼は仕事で電波が届かない海上にいる。電波が届かない。現代では考えられない環境だ。孤立無援、人とのやりとりはおろか、興味のないニュースを斜め読みすることすら叶わないのだ。そこで私が現在の身の回りのこと、ひいては日本の状況を、これを読めば網羅できるようにし、電波が入ったら友人を最新の状態に同期しようというものである。

 

よう兄弟、元気にしているか。

いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?オーケー、まずはいいニュースから。お前の奥さんは元気にしているぜ。それはもう大変なもんだ。いつもの薄ぼんやりとは違う。ずっと歩き回っている。多分新しい健康法かなんかだろう。見違えるようだ。それで悪いニュースってのは、まあ、その、なんだ、その元気な彼女なんだが、ゾンビになってるってことだ。

そしてお前がこれを混んでいる頃には、俺はもう駄目だろうってことだ。

 

いいか、黙ってよく読むんだ。お前が上陸する頃、今俺がいるホームセンターのバリケードは"ヤツら"によって突破されていることだろうから。ヤツらには当然お前の奥さんも入っている。奥さんをどうにか救ってくれって?悪いが答えは『ノー』だ。 

 

お前が陸を離れている間、新型コロナウイルスに目をつけた某U社はこれを培養して、おぞましいウイルスを完成させた。

そう、その”まさか”さ。『T−ウィルス』だ。

それを1人のマヌケが、まあマヌケってのはお前の奥さんなんだが、駅で落としちまったのがこの地獄の始まりだ。日本全国がゾンビのホームパーティ。笑っちまうだろ。なんで彼女がT−ウィルスを持っていたのかって?残念だが俺が知ってるのはここまでだ。それに、だ。いまゆっくり説明している暇はない。

わかってる。馬鹿げた話さ。俺も最初は正気を疑ったぜ。

 

初めてヤツらを見かけたときは最高にビビっちまったね。

ゾンビになったお前の奥さんを見て、危うく実家のお袋を思い出しちまった。

だから俺はお前の奥さんにこう言ってやったのさ。勝手に部屋に入ってくんじゃねえババア!………ってね(HAHAHA!!)

 

……時間切れだ。くだらねえことを書いているうちにヤツらが来ちまった。

最後にお前に頼みがある………妻と子供たちに伝えてくれ……お前たちを愛していると俺が言っていたと。

お前の言いたいことはわかってる。あぁ、その通りだ。間違ってない。俺だって本当は自分の口で伝えたいさ。本当だ。だが無理な相談だ。なぜかって?このホームセンターにはRPGも売ってなけりゃレオンもいないからな。お前も無事でいてくれよ。

もし、もしもだ。このクソったれのホームセンターから抜け出せたら、バーボンで(手紙はここで途切れている)