よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

ある後輩への献文

君、聞きました。会社を辞めるそうですね。

いつかは来ることだと分かっていても、実際にそうなると驚くものですね。現に私は柄にもなく感傷的な気持ちになっています。心の準備はできていたはずなのに、なかなか受け止められません。それもそうでしょう。僕はこの部署で4年目を迎え、君は3年目になりました。ほとんどの時間を君と過ごしました。誰にも怒れらたくないが早く帰りたい我々は、効率よく仕事をする息の合ったいいチームだったと思っています。悲しいことに、後にも先にも君ほど僕に合う人材は現れないと確信しています。

 

君が隣に座った1時間後に私が「慣れましたか?」と聞いたことを覚えていますか。初めは不安そうにしていた君が今では私に提案をし、意見をし、補佐してくれる。その成長に私だけでなくみんなが目を細め、私が教えたこと以上の成果を出す姿に、直属の先輩としてどれほど鼻が高かったか分かってもらえるでしょうか。優秀な後輩を持つ。こんなに幸運なことはそうそうありません。

君の仕事は気が利いていて、自分の為すべきをよく理解していました。それは君自身の人柄によるものなのでしょう。かと思えば、なんでもないところでつまずいたりする。君、四則演算は間違えないように。

 

優秀な後輩と仕事ができるのはそれだけでも幸運なことですが、それだけでなく君とは話が合い、君を笑わせることが僕の仕事に対する張り合いのひとつになっていたことは言うまでもありません。後輩というよりも兄弟や友達感覚でした。それがいいことなのかはわかりませんが、仕事をおろそかにしないあたりを考えると悪くはなかったと思っています。君が去ってこれからは昼をどこで食べるか考えなければならないし、ひとりで運転する静かな車内もきっと物寂しいものになるでしょう。つまらない仕事がもっとつまらなくなってしまいそうで今から寒気がします。

 

今までの仕事が果たして君の人生を豊かにするかはわかりませんが、君の生活の向上にもし僕が少しでも関われていたのなら、とても嬉しく思います。

新たな環境へ身を置こう君へ。君にはたくさんの才能があります。人を気遣う、決まりを守る、最適解を諦めない、コミカルである、そして人に愛されることです。その敵を作らない性格は尊敬に値します。

 

最後に、私が1年目に先輩に言われてありがたかった言葉を君にも。

「お前はどこででもやっていける」

『たいせい』を祈願して。それでは。