よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

共通言語と合言葉と

今年も12月に入って久しく、残すところもあと1週間ばかりとなった。

今年の流行語は「インスタ映え」「忖度」だったそうだ。インスタと呼ばれる写真を投稿するSNSの存在は知っているが、実際に使用したことはない。そもそも僕のような老人界の新人王が撮った、ブレていて粗い写真をいったい誰が見たいだろうかと考えてしまう。上司が食事の写真を撮るのを見ると、なんともいたたまれない気持ちになると同時に、自分のこの保守的かつ捻くれた感性がどうかしているのではないか。考え過ぎだろうか。と逡巡し、次第に気分が悪くなってしまう始末。思考の蟻地獄。

ヤフーニュースで、「最近のJK・JCの選ぶ流行語」という30秒だか1分だかの動画を見た。「◯◯み(可愛みなど)」「熱盛」「マジ卍」など、どこかで見たことがあるようなないような言葉が並んでいた。その中でも特筆すべきは、5位の「ンゴ」だ。これはもう10年くらいに2ちゃんねる、なんJで使われていた言葉だ。むしろ今なのかといった感じで、仕舞いには当時の記憶も一緒に掘り起こされ、なんだかじわじわと恥ずかしくなってくる。

 

もうかれこれ9年近くテレビ番組というものを見ていない。もちろん最近のニュースはもとより世間の関心ごとや流行りものがわからない。辛うじてネットに転がっているニュースを見るくらいだから、陛下退位で10連休云々、不倫がどうのと雑多で粗い情報のみ。

そんなことだから最近の世間の流れ、人気のある人たちがまるごとごっそりわからない。半年ほど前、友人Dにピスタチオという芸人が次来そうだ。と言ったら、「それは2年くらい前に終わった。お前はナイツの今更漫才か」と言われる始末。これは僕にも伝わった。この「ナイツの今更漫才か」というツッコミが好きなのだが、伝わっているだろうか。そもそもこのツッコミも今更なのではないだろうか。それとも流行っているのか?

また、会社の女性に最近3代目ナントカというグループの流星(RYUSEI?)というのが流行っているそうですね。と言ったら、なんでもそれも1、2年前のことらしく随分と驚かせてしまった。僕のセケンと実世間にはおよそ1、2年の開きがあるらしい。いつも流行り廃りは早いもんだ。そして僕はいつも流行りがわからない。

 

子供の頃、夜遅くにテレビを見ることを禁じられていた。特に夕食後には勉強の時間が設けられており、机に向かうことを強要されていた。それが苦痛で仕方なく、机に向かってもなんのかのと喚き、毎日逃げ回ることばかりが上達してしまった。そして社会人になった今も机に向かえず、知識と向上心は驚くべき低空飛行と不時着陸を繰り返している。もはや低いバウンド状態。

学生時分、翌日学校に行くと周りの級友たちはしきりに僕の見なかったテレビの話をしている。仲良くしたい級友、先輩後輩はその場の誰かが「昨日のあれ見た?」という合言葉を皮切りに楽しそうに僕の知らない話を始め、その度に置いてけぼりにされていた。あれは、僕の知っている日本語だったけど、まるで僕の知らない共通言語で話し合っているようだった。広義の「内輪ネタ」とでも言うのだろうか、知らない合言葉を使っているので、言外の細かなニュアンスや背景を共有できない輪の外にとってはつまらなかった。

何かの拍子にその話題のテレビを見ても、みんながそれほど熱中する意味もわからなければ、見たときに限って話題にならなかったりしてつまらない思いをするばかりだった。

 

ニュース全般、特に芸能ニュースに強く感じることなのだけれど、興味のない隣町の学校の壁新聞を読んでいるような、完全に他人事で、自分の人生とその壁新聞の交わるところが今後一切ないように思えてしまい、かといってエンターテイメントとして消費できるかといえば、知らない人の一部分のみを丸々飲み込んで楽しめるでもなかった。

それだったらいっそ遮断してしまってもと思い今に至る。自分に必要な情報を選んで摂取しているのかと問われればそういうわけでもない。よく「社会人なら新聞くらい読めよ」と会社の先輩に言われるが、豚に真珠、猫に小判、僕にニュースという面持ちで適当な返事をして帰り支度をしてしまう。そしてそれは世間のニュースだけではないかもしれない。

 

会社の飲み会で仕事の話になるのがとても苦手で非常につまらないのだけれど、それは共通言語が仕事しかないためだ。会社の人と共有できる言語はそんなに多くない。「◯◯、最近どうすか?」という合言葉宜しく、上司の釣りやゴルフを共通言語としたらいいのだろうか。(そこまでして?)。そもそも僕は共通言語を必要としていないのではないか。

最近では口を開けば恋愛。同棲。子供。色恋。風俗性欲。株式投資に生命保険。共通言語とはいかないけれど、合言葉のようにそれらの話題が始まり、その後は僕の知らない言語が飛び交う。僕にはなにも分からない。みんなの言葉がわからない。