よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

3^(n-1)

先日、刑事ドラマを見ていたときのこと。ある殺人事件に関わったチンピラが、それを指示した大物政治家に口止め料せびった。まぁ、皆さんの想像通りに物語は展開する。待ち合わせ場所に政治家の手先の3人組が来て、チンピラは「なんだテメェら!政治家先生はどうした!」とすごんだのも束の間、あれよあれよという間に殺害されてしまった。

それを見て僕は「まぁそりゃそうなるよな」と思った。いかにも悪そうな政治家、息巻く三下丸出しのチンピラ、口止め料、口封じ。

既にチンピラに接触していた主人公たちは、チンピラの死を知り、これを捜査していよいよ政治家を追い詰めてやろうと政治家の家に向かい、対面する。

主人公たちは政治家に向かって「絶対に捕まえてやる」と宣言し、対して政治家も「誰に喧嘩を売っているんだ。やってみたまえ」と応えた。

 

政治家って怖いなーと思いながら、ここである疑問が湧く。「口封じした3人組を口封じに殺害しないとダメじゃん」である。どうですか。目からウロコ通り越して、目から魚でしょう。

 

チンピラを殺害した3人組。ここから政治家にたどり着く証拠が見付かってしまうかもしれない。せっかく証拠のチンピラを殺害したのに、チンピラを殺害した3人組が新たな証拠になってしまう。僕のような小心者だったら、証拠隠滅のために更に3人組を殺害しなければならないと思うだろう。つまり、口封じを口封じしなければ安心感できない!逃げられたり返り討ちにされないよう、1人に対して3人組で対処した方がいいだろう。

3人組を殺害するために、3×3=9人が必要になる。そして事は成されて一安心。今日は芸者遊びをして、久しぶりに愛人でも抱いてやろう……あれ?この9人が今度は証拠に繋がりかねないではないか。もちろん消す。絶対に消す。どうやったって消す。安全を期してやはり1人に対し3人は必要だろう。9×3=27人が必要だ。なに、金ならある。人を集めよう。念のために警察上層部に圧力をかけておけば、どうにでもなる。

いや待て、この27人が……

 

負の連鎖は止まらない。既にこの段階で、1+3+9+27=40人の命が失われた。そしてこれは安心が得られるまで続く。17回ほど繰り返せば、日本の人口に匹敵する数になる。構うものか。世界の人口が半分になろうとも、証拠を消し続けなければならない。自分が死ぬか、あの生意気な刑事共が諦めない限り。

これはもはや戦争だ。戦場で生き残るのは勇敢な者ではない。臆病者なのだ。ククク……私は最高に臆病者なのだよ……最後まで生き残ってやるぞ…!