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ゴロワースの香り、あるいは氷の溶ける音

お洒落な文章を書いてみろ。

正面に座っていた同期は、ビールで顔を真っ赤にしながら俺にそう言った。

自分でもわかるような引きつり笑いをして、小さく頷いた。ぬるくなったビールをあおった。

──土台無理な話だ。

なぜなら俺は自分が洒落ていないことを知っている。

それに、だ。

こういう一人称とか、無駄な改行、語尾で誤魔化そうとしている。仕方ないことだ。これが俺にできる、注文に対して唯一できる回答だからだ。

 

ということで、お洒落な文章とは何か。ここ2,3日立ったり座ったり、散歩に出かけたら雨に降られたり。洗濯物が干す前より濡れていたり。そういうことをしながら考えたことを備忘録がてら書いていきたい。

そもそも僕は考えすぎる傾向にある。馬鹿みたいに一人でしょーもないことをぐるぐる考え、挙句にまったく関係のないところにきていることが多い。

始末におえないのが、「んで、最終的になんなんだっけ?」となるところである。まるで認知症老人ではないか。

こんな人間が果たして”お洒落な文章”など書けるだろうか。うっすぃうっすぃ表面を撫でたか撫でないかくらいの雰囲気も出ていないものになること請け合いではないか。

 

そうは言っても、せっかくなので。

まずはお洒落な音楽でもかけながら読んでほしい。例えば、ウィスパーボイスなボーカル。ワウとキレのいいカッティングを多用するギター。主張しない重厚なベース。軽快なタム回しのドラム。そういういう音楽を聴きながらだと、何となく雰囲気が出てくるのではないか。間違っても合唱はやめてほしい。しかも合唱コンクールのは特に。青春とお洒落は噛み合わないことが多いから。

 

材料は「酒と煙草と男と女」だ。それでは見てみよう。

お洒落な文章には酒だ。洋酒がよいだろう。バーボンやスコッチ辺りの蒸留酒が好ましい。ワインは知識が必要な上に少し鼻に付く人がいるかもしれない。バーボンについては、必ずロックだ。いや、ストレートでもいい。水割りはだめだ。無闇にアルコール度数を下げてはいけない。ロックの氷が溶けて水割りみたいになったのは、よしだ。時間の経過を示す指針にもなる。

次に煙草だ。ここもわかばやエコーなど、旧3級品は違う。ゴールデンバッドはありだが。これは俺の好みだ。芥川や太宰が吸っていたからありなのだ。ポール・モールやゴロワーズなんかがいいかもしれない。なんか名前とかパッケージがオシャレっぽい。名前も。雰囲気だ。

そして男だ。これは重要だ。物語の主幹となりうる。前者の酒と煙草をどっちもやる。そして酒は強くなければならない。アルコールを一口含んでほろ酔いになるやつに物語をお洒落に進められるか懐疑的だからだ。声も低く、長身、ほどよい痩身か。一言で表すならスタイリッシュ。少し悲しそうに笑うのはどうだろうか。それとも笑わない方がいいのか?ここら辺は適宜だろう。

最後に女だ。ここも前の男と同様、主幹になりうる。高い声でキィキィ叫ぶような輩は違うだろう。矢鱈滅法グラマラスである必要はないが、ある程度の伸長は必要だろう。できればヒールの似合う綺麗な脚がいい。加えて、含みのある物言いが影を作る感じだ。断定しない口調だろうか。

 

ここまで考えた。これは果たしてお洒落か?どこかから借りてきた衣装を似合わないまま、おだてられるまま着ているような気もしないでもないが。その疑問を抱いた上でこの前見た嫌な夢の話を書こうかと思ったが、どうしても書いている自分が恥ずかしく笑けてくるので、男をハゲ散らかしてみたり芋の水割りを小汚い食堂でくだを巻かせたり、女は女で大声で笑ったりフガフガ言わせながら汚い言葉遣いをさせてしまうので断念した。お洒落さに逆と思われる要素を組み合わせると面白いのではないかという気持ちが湧き起こってきてどうしても雰囲気を維持できる自信がなかった。

 

材料があっても、オシャレに盛り付けることができない。もしそんなことをすすめられても、書いているうちに俺の膝が笑って涙が止まらなくなってしまう。書いてみたいと思う反面、それをする自分に疑問を持ってしまう。

どこかで文体練習として書いてみたいとも思う。どうか笑わずに御笑覧いただけたら。