22時を過ぎ、昼間とは打って変わって随分暗くなったフロア。口の中で小さく繰り返す。
通勤よりも空いた電車に揺られながら、帰りが遅いのは僕が無能だからかと考える。
仕事で疲れ、飯も食わずに家に帰ってくる。
中に何もないことを知っていて冷蔵庫を開けると、暗い部屋を優しく照らしながら、酒だけが冷えている。
短く切りすぎた爪のせいか、ビールを開けられないでいる。
少し苛々としながら、やっと空いた缶。
ため息のために開いた口から不意に言葉が出てきた。
「読まれたい」
もーーーメチャクチャ読まれたい!この弱小ブログを!!読まれたい!800兆人に2京回読まれたいんだ!読まれて「面白かった!」「いい文章だった」と言われたい!「抱いて」「5億あげる」と言われたい!褒めそやされたい!!切実に!
そうだ!読まれるために何かしよう!例えば検索に引っかかりやすい人気のキーワードを文中に特盛つゆだくで混ぜ込もう!「平成最後の」か?「今日から俺は!!」か!?
内容だけじゃなく、タイトルも変えていこう。「〜〜するべき5つの理由」とか「◯◯過ぎる××3選」とか、そんな最近のタイトル型ワードと上から目線で文末に「いかがでしたか?」とか言う割にしょーもないクソみてえなつまらん文字列で一人でも多くの方に読んでもらおう!!
いつからか僕の中にもそんな自尊心と呼ぶには手に負えない怪物が育ち、それは餌を与えるどころか最小に留めようと徹底的に管理していたはずなのに、どんどん大きく禍々しくなって今にも爆発しそうになる「読まれたい怪獣」。
こいつは自尊心から始まり、それが満たされないためにSNSにエッチな自撮りを上げてはチヤホヤされようと必死な承認欲求及び自己顕示欲に至るまでを食い尽くし際限なく肥大することをよしとする精神的ビッチと一緒だ。確実に僕を蝕んでいる。
………ハッ!僕は「インスタ映え」とかいうのを狙う蝿どもを些か軽蔑視していたのに!これでは承認欲求丸出しの現代人と一緒じゃないか!なんだ、僕もそうだったのか!「インスタ映え(笑)」みたいに一旦引くことで『自分は違いますよ』みたいな空気を出しつつ、それでいて空気に乗っかろうあやかろうとする余計狡い人たちと一緒じゃないか……!!
…諦めよう、精神の壁を壊して、インスタと手を取ろう。侮蔑して斜に構えることで自分は違うみたいな顔をするのはやめだ!これはもはや仕方ないことなんだ。そうしていいね!やスターを貰おう。さあ!僕を見てくれ!誉めそやしてくれ!
僕は子供がいないから、 猫だ!スイーツだ!数字を持っているものにすがろう!なぁ、素敵だろ!素敵な環境に身を置く素敵な俺を見てくれ!褒めそやしてくれーーッッ!!
でも僕が欲しいのは自分が思ったこと、考えたどうでもいいことを三文文で書いて、その上で楽しんでもらいたいわかってほしい。ということだったはず。目的が手段になる瞬間というのはこういうもなんだろうか。なにが読まれたい怪獣だ。精神的ビッチだ。僕は駄々をこねる子供だ。自意識だなんだと叫ぶ斜に構えた自意識という地獄。よりたちが悪いですね。