よかれと思って大惨事

よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

方方見聞録・岡山2

前回

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鷲羽山から眺める瀬戸大橋の絶景を見物し終えて倉敷に戻ってきた。偶然だったんだけれど、この日は倉敷天領祭なる祭りがあるらしかった。倉敷駅から出てメインの通りがその会場で、まあ夏と祭りが大好きな僕としては、一目拝まねば宿泊予定である岡山駅周辺のホテルになぞ向かえないだろうという考えに至った。

通りに繰り出し、法被姿で踊る老若男女を眺めているとややあってから小糠雨が降ってきた。中止するほどでもないのだろうが多少雨が凌げるところでないと濡れてしまうと屋根に逃げ込み通りを見つめる。少しずつ雨が強くなっているような気がして、祭りを楽しみにしていた人たちを思うと部外者ながらなんだかいたたまれなくなってくる。せめて雨の中で踊る人たちの勇姿を見ようと目を凝らす。すると、しっとりと濡れた浴衣美女たちが眼前を通り過ぎる。刹那、なにか、こう、自分の中の新たな扉が開いていくというか、ともかく日本三景にも勝らずとも劣らない絶景が繰り広げられていたわけであります。雨よ降れ。降りしきれ。瀬戸大橋?絶景?三名園?踊り?はあ?筆舌に尽くしがたい、めくるめく眼福繰り広げられる世界。かつてこれほどの眼福があっただろうか。これですっかり岡山愛が芽生えてしまった。

岡山愛って。名前かよ。学年に一人はいそうだ。そういえば前回鳥取に行った際、鳥取大学を"鳥大"と略している人たちがいて、さすがに笑ってしまった。大きめの鳥である。「鳥大やばい」である。相当大きいのだろう。たぶん完食したら賞金がもらえる的なものだろう。ダチョウの丸焼きかなにかか。

 

翌日曜日。朝起きた時点で疲労限界近かったんだけど、 せっかくなので岡山城日本三景の後楽園へ向かう。ちなみに昨夜と打って変わってとにかく晴天。皮膚を刺殺せんばかりの日光。僕が金属なら溶けて液体にならんばかりの暑さ。

岡山城にたどり着く頃には僕の身体はグズグズに溶け、途中に脚であったものとか耳であったものとかを商店街に置き去りにしたためか僕自身が全体に小さくなっていた。正面に黒くそびえる岡山城を目の前にしても、正直どうでもいいとすら思った記憶がある。

 

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岡山城。黒いので、別名”烏城(うじょう)”というらしい。 

 

ここまで来て、あまりの暑さ、疲れにベンチにへたり込み、20分ほど動けなくなってしまった。あぁ、なんでこんなところまで来たのだろうか。どうして疲れは取れてくれないのか。強い身体が欲しい。そして曇って欲しい。と切に願った。もっと言えば、翌日からの兵庫研修もどうでもよくなるくらい疲れて、もう即刻家に帰れないのなら土に還ってもいいくらいだった。

岡山城の中は刀剣とか甲冑が納められていて、かつ他の城の解説も掲示されていてなかなか勉強になった。嘘だけど。全然覚えていない。2,3心に留まったものがあったけど。 

庭園や景勝地巡りは好きなので 、日本三名園のひとつ"後楽園"へ。石川の兼六園のような侘び寂び的要素より、その広さや見晴らしの良さからも、かなり性格の違う印象を受けた。敢えていうなら村のようだった。岡山城に隣接していることを考えると、恐らく城的役割の一端を担っているのではないだろうか。

 

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後楽園内の高台より。目算だが、東京ドーム6億個分くらいあると思われる。 

 

ぐるりと廻ったところで小雨が降り始めて、木陰で雨うつ池の鯉を眺めていると、子供たちが雨に濡れるのも気にせず鯉の餌を一心不乱に投げ始めた。鯉のバシャバシャと波立てる音と蝉の音、そして小さな雨の音が綺麗に連なってとてもよい光景だった。ビールを飲みながら、ここで疲れて動けなくなってよかったとすら思った。

 

そこから重い腰を上げ、脚を引きずり、なんとか兵庫まで行きましたとさ。

そうそう、今回はスーツでの登山はありませんでした。期待していた方、申し訳ない。特別ハプニングも起こっておりません。

平伏。

 

方方見聞録・岡山1

7月中旬は発狂して虎になってしまうのではないかというくらい忙殺されていた。

というのも、7月下旬に月曜から1週間の兵庫出張が決まっており、その準備と併せ急ぎの仕事がいくつか入っていて、諸葛亮孔明ばりにいない間の対応方法を人に授けたり各手配に追われ狼狽していた。更には不調な社内システムや社内の委員会のようなものに引っ張り回されて何一つ思い通りに進まず、とにかく仕事アレルギーのために日々アナフィラキシーで命の危機に晒されているこの僕が、日付を跨ぐまで仕事をするという緊急事態だった。と言いつつも、出張という名目ではあるが未訪問の地に想いを馳せては意識がフワフワ漂っていた。今回もきっとどこぞに行ってみよう。月曜からの出張にかこつけて、前週の金曜日に有休をねじ込んで3連休をもぎ取って……

 

 前回の兵庫出張では土日を利用して鳥取。そして兵庫の、神戸とかいうお洒落なところからは遠い北の方の城崎温泉に行った。

 

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そもそもお洒落なところに僕のような薄汚れた不衛生な醜男が行くのは忍びないと思って城崎温泉に行ったのだけど、人目を避けて逃げ込んだそこは周りがカップルだらけでキラキラと、公然とキャッキャウフフな口に出すことも憚られるほどの卑猥かつ破廉恥行為が繰り広げられていた。内面外見共に気分を害し公共の場に相応しくない存在こと僕がお目汚しをしてしまい申し訳有りません。という謝意がひっくり返って逆に(全員の顔を覚えたからな。覚悟しておけよ…)と思ったのを教訓にしつつ、今回はもう夏ということもあり、温泉を避けて選んだ。そうして白羽の矢がたったのが、岡山。「そうだ、鳥取に行こう」は低視聴率のために終わり、新番組は「そうだ、岡山に行こう」ということだ。

ところで当分兵庫出張はなくなるのだが、今になって思うとなんで兵庫を観光しないのだろう。不思議でならない。ひたすら遠くに行かなければいけないわけではないのに。大切なものはいつもすぐ近くにあるらしいが、もしや人の業だろか。業なら仕方ない。

 

まずは金曜日。有休を取ったものの、前日にライブに行ってそれから会社に戻って仕事して、帰りが日付を越えて疲れていたためか昼過ぎまで寝て過ごす。岡山遠いのに。なんなら家から出たくなくなる。暑いし。夕方にようやっと荷造りが終わり、4時間以上かけて夜の倉敷に着く。

アパホテルでは、部屋が空いていたのだろう。素晴らしい心遣いのお陰で、よい部屋に通していただいた。まさか二人旅気分、ひいては同棲気分を体験できるとは思わなかった。ありがとう、アパホテルアパホテル御中。

 

 

 

翌土曜日は倉敷の美観地区を見て回った。倉敷と言えば、ジーンズも有名で場所によっては自分でジーンズを作れたりもするらしい。ジーンズとTシャツだけで十分な人間になりたい。ベストジーニスト賞を賜りたい。と常々思っているのだけれど、ただ荷物になるし夏はあまりジーンズを穿かない。夏以外なら寝るときもジーンズなんだけど。ジーンズで林檎を拭いて丸かじりしたりするけど。ワルそうなやつは大体友達だけど。漢である僕は夏はフンドシ一丁で練り歩く主義なので見送り。

美観地区は白壁の日本家屋が建ち並び、時代劇にでも出てきそうな端正な景観。両脇がなにかしらのお店が軒を連ねているんだけれど、お洒落。入口を開けられないくらい。お洒落なところ怖い。

 

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美観地区というだけあって、景観だけでなく掃除も行き届いている。

 

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たまんないよね。この「ザ・情緒」って感じ。

 

空気を堪能して、そのまま車で瀬戸大橋を見物しに鷲羽山へ。大学時代に橋梁工学についてちょこっと聞いたことがあるくらいで、橋に特別興味もないのだけれど、まあせっかく近くまで来たので拝んどこ。くらいの軽い気持ちで向かった。なんなら暑くてどうでもいい涼みたいくらいに思っていた。正直なめてた。

 

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ひたすら壮大。見晴らしがいいのにもかかわらず、向こう側が見えない。

 

まず、とにかく景色がいい。そして橋はよく作ったな、と思うくらい長い。建っているのが不思議なくらい。そして人は、過度に大きいものには笑ってしまうことに気がついた。なぜだかわからないほどヒイヒイ言いながら笑ってしまった。

あの上を運転したらさぞ気持ちがいいのだろうと思ったが、せっかくだけれど、渡るのはやめておいた。なんだか少しの心残りがあった方がいい気がしたから。

 

あなたについて何処までも

もーもたろさん ももたろさん お腰に付けた きびだんご ひっとつー わたしにくださいなー

 

どうもこんばんはどうも、僕です。

のっけからみんな大好き、とっとこ桃太郎のテーマソングを口ずさんでしまいました。

というのも来週一週間、また講習会で兵庫県に行くことになりまして。前回はいい機会とばかりに鳥取、それも砂丘を中心に攻めたのは記憶に新しいことですが、今度もいい機会とばかりにどこぞに旅行してみようかと思っておりまして。

方方見聞録・兵庫&鳥取1 - よかれと思って大惨事

方方見聞録・兵庫&鳥取2 - よかれと思って大惨事

 

出張の楽しみって名産品とか食べ物じゃなくて、それにかこつけた旅行ですよね。旅行といっても気晴らしで、自分探しとかそういうのはあり得ないですからね。そういうやつは探したまま一生を終えるからね。

さて、冒頭に戻って。今回は岡山県を攻め落としてみようかなと思っていたら、無意識に桃太郎を大熱唱してしまったというわけですよ。岡山といえば、最近au御中のCMでもお馴染み桃太郎。桃太郎といえばきびだんご。岡山ではぜひ年上豊満美女にきびだんごをいただき、宜しくそのまま家来になってしまいたいところですが岡山のアラサーの豊満美女の皆様、ごきげんよう。いかがお過ごしでしょうか。愛しています。

 

閑話休題

今週末はなんでも仙台市博物館和歌山県高野山の仏像が来るということで、遠路はるばる仙台に拝見しに行ってきたんですよ。弘法も筆の誤りでお馴染みの空海が開いたという高野山ですね。そこには国宝の童子像とか明王像とか、明王と見紛う五大力観音菩薩の掛け軸とかありまして、非常に楽しめました。なかでも運慶作の制多伽童子や清浄比丘童子は一際精巧だった。玉眼と呼ばれる仏像の眼に水晶をはめる技法があるんですが、それも相まってまるで眼差しが生きているというか、表情の肉感が現実味を増して、眼が合ったまま足が釘付けになるくらいの力強さでした。

 

そのあと2年振りに、友人Dと日本三大名瀑と公言している秋保大滝に行ってきました(三大名瀑については調べると諸説あるみたいですが)。2年前には友人Dと友人Dの彼女Mと行ったんですけど、彼女Mの証言によると、ちょうど2年前の海の日に当時付き合っていた彼女と別れた僕が、半ベソかきながら秋保大滝に単身突撃し、川底の藻に足を滑らせ、岩で足の裏を切って出血し、いよいよ全ベソかいていたらしいんですよ。まぁここまでで相当みっともないことに失笑していることと存じますが、今年はその続きがあるんです。

今年は2年経ち少しオトナになったので、滝への単身突撃はやめて浅瀬に足を突っ込み涼を取りながらばちゃばちゃやっていたんですよ。マイナスイオンを全身に浴びて。パワースポッツの恩恵にあやかろうと。

んで20分も遊んで、よしそろそろ帰ろうかと後方にいる友人Dのところへ歩き出したら、胸ポケットに入れていたサングラスが突然滝の方に単身突撃せんと身を乗り出したわけです。そして川の流れに乗ってどんぶらこ、どんぶらこと行方知れずになってしまいましたとさ。

まったくどうして僕はこうも。パワースポッツの恩恵ってのは一体なんなんだ。

 

月末はフジロック参戦のため、新潟の苗場に行きます。そのためにはできればサングラスが欲しいです。

繰り返しになりますが、来週末は岡山へ行きます。宮城から流れてきた僕のサングラスがどんぶらこと岡山に流れ着いていてくれたら、僕こと洗濯するお婆さんはすっと拾い上げ、サングラスをおもむろにかけてサングラス太郎として社会の鬼たちをばったばったとなぎ倒していくのにね。そして金銀財宝と年上豊満美女を得、彼女のご両親と仕合わせにくらしましたとさ。

めでたしめでたし。 

 

4人はさすがに入らない

さて、趣向を変えて今回はなぞなぞから始めましょう。

もんだい:会社に2本、社用車に2本、鞄に1本、家に1本。これなーんだ。

 

 

こたえ:『傘』

皆さんのような傘プロレタリアと違って、僕は傘に関してはブルジョワジーなんです。現在6本所持しています。実際はもうちょっと増えるかもしれない。一人暮らしでもちろん彼女もおりません。誰かのを預かっているわけでもない。単なる傘お大尽です。傘大名でございます。

なんで矢鱈めったら傘を持っているのかと申しますと、荷物が大嫌いだからなんですね。特に手が埋まってしまうのが大の苦手で、傘を持ち歩かないんですな。雨の予報だろうがなんだろうが「降らなかったら傘などただの荷物」とばかりに手ぶらで出掛け、そして帰りには雨に降られてしまうものですから、雨の日は大体コンビニに寄って傘を買い求める始末。傘の消費をこうして支えているのです。

ほんじゃあ出がけに降っているときはさすがに傘を持って出掛けるんですが、用が終わって降っていないとすぐに失くし、失くしと申しますか、まあどこぞに忘れてくる始末。その度にコンビニで新調し、かと思えば失くしたものがひょっこり出てきたりなんて。そういう不出来から結構持ってるんですね。

そんじゃあ折りたたみ傘を持てばいいんじゃないかってんですが、そういうもんでもない。社会人のたしなみとして社用の鞄には申し訳程度に入っているんですが、休日は鞄を持ち歩く習慣がないために傘はおろか折りたたみ傘も持ち歩かない。そもそも傘って雨に対する防御力が低すぎるじゃあないですか。やる気あんのかと。傘という字をよく見てみてくださいな。人間が4人も入っていやがる。入ってるけど、そんなに入るわけがない。だって一人満足に雨を凌げないことが多いんだから。

 

なんでも台風の影響で昨日はかなりの雨が降る。と聞かされていたものですから、出勤時は降っていなかったんですけれども、まぁたまには持っていってもいいだろうと傘を持って仕事に向かったんですね。会社にも社用車にもあるのに。

プラプラとお客さんのところに赴き仕事をしていたんですけど、有り難いことに昼間は一向に雨が降らずにいてくれて。夜になってなんとか無事に仕事を終えて、さあよし会社に帰ろうか。ってんで車に乗り込むやいなやざあざあと降り始めた。こらひどいってんでよたよたと初心者みたいな運転でもって会社に帰ったんですがどうにも降り止む気配がない。

 

人のいない社内で軽く事務処理をして帰路。雨が打ち付ける窓を眺めて最寄り駅に着くと、視界が白くなるほどのものすごい豪雨。すれ違うのはため息でも漏れそうな困り顔、眉間に皺を寄せながら傘を振り回す人。タクシー乗り場には長蛇の列ができていて、いつも暇そうなタクシープールががらんとしている。

 

そういえば、昨年の暮れにもこんな景色を見たことがあったんじゃあねえかって漁ってみるとやっぱり出てきましてね。  

 

お陰でこん時鞄に入れていた「反貞女大学/三島由紀夫」がぐずぐずになってしまいましてね。今でも少し後悔しているんですよ。

今回は鞄に「落語こてんパン/柳家喬太郎」に「機械・春は馬車に乗って/横光利一」と「最後の喫煙者/筒井康隆」を背中におぶっていたんで、こらぁおんなしことになっちゃいけねぇってんで自分が濡れるのもお構いなしに、傘でもって必死に雨風を凌いだんですよ。

スーツがびっしょり濡れて家に着く。鞄の中を検めるとなんとか御三方は濡れずに済みました。ほうら見やがれ、やっぱり4人は入らない。

 

センチメンタル状態におけるフラッシュバック現象

 2週間ほど前の水曜日ことだったか。仕事ばかりで身体も鈍ってきたことだし少し走ろうかとバッティングセンターから帰ってきて筋トレをしながら思い、筋肉の悲鳴を聞きながらワイヤレスのイヤホンを耳にはめ、ランニングシューズを履いた。トボトボ走りながらiPodをランダム再生にすると、Steely Danスーパーカーが続いた。そのまま10分ほど軽く外を流してから家へ戻ると、中学の頃の友人Kから連絡が来ていた。Kは北関東に住んでおり、年に2度ほど会う。そのうち1回はフジロックというのが定番だ。

Kからの連絡を要約すると、週末泊めて欲しいとのことだった。なんでも女と会うのだが、諸事情で都内の実家に帰れないので、どうせ会う人も予定もなく、ただ置物のように部屋で横たわっているくらいしかしないんだろう僕に白羽の矢が立った。とのことだった。

我が袋小路のような家はその前の週は東北の友人Dを泊めており、人との生活のリズムというかパターンがなんとなくできていた。反面、部屋の狭さも相まって共同生活から少し解放され一人全裸で置物のように横たわり土日を過ごそうかと思っていた頃だった。しかしこういう機会でもなければ人に会う予定など滅多にないので、まあ週末だけだし昼間もいないだろうからと快諾した。所詮1泊なのだし。ところが土曜の夜に来ると思っていたKは金曜の夜にやってきて、そのまま火曜まで結局4泊しやがった。

ーー例えば、だ。想像してほしい。袋小路で顔の濃い野郎2人の男臭い共同生活を。まさにそれだ。想像できなかった人は阿部寛北村一輝が袋小路のような一室で共同生活をしていると思っていただきたい。予想外にドラマになりそうなので、できればこっちで想像し直してほしい。

 

中学の部活の友人であるKは、飲んでいるときに部活の結婚した人たちの名前を挙げて「みんなあの頃からどんどん変わっていくが、お前は変わらないな」と言った。言外にはどうやら性格的なものにも言及しているみたいだった。それについては僕にも自信がある。「俺は変わらんよ。変わらん。そうそう変わってたまるか」と酔いも手伝って吐き捨てるようにわめき散らした。「そうだ、その意気だ。変わらない安心感がある」「みんなが変わりすぎなだけだろう。信念がないのだ、信念が」とまたもわめき散らした。本当は怠惰から、もしくは頭が固いから変わらないだけなのだが、それでは格好がつかないのでビールで言葉を飲み込む。

 

夜になると袋小路に帰ってくるKとは飲みに行く以外には特になにをするでもなく、4日間が過ぎていった。ここいら辺で、自分の人と時間を共有する能力が低いことに自己嫌悪し始める。友人Dくらいしか遊ぶ相手がいないから当然か。

5日目の火曜日、僕が仕事に行っている間にそいつはいなくなっていた。仕事を終え帰宅すると部屋は暗かった。思っていたより部屋は広く感じられなかった。

 

家に早く帰れた日に、またイヤホンをさして外を走ろうとした。どこかで聞いたAC/DCを聴こうとiPodをスクロールすると、そういえば随分前から入れてなかったなと思い出した。結局くるりを流しながら走った帰り、汗だくのままコンビニに寄って2,000円分の食料を買い溜めした。

 

コンビニからの帰り道、暗い道に差し掛かる。不意に中学時代の部活からの帰り道がフラッシュバックする。 

昔は激しめの音楽を聴き、コンビニにはほとんど入らず、スーパーで何をするでもなく友人たちと時間を潰していた。そういえば、昔から遅刻しないことがなかった僕が、いつからか人を待つ時間が増えた。

なあ、僕は本当に変わっていないのか?僕はそのままなのか?ぐるぐるとそんなことを考えながら野菜ジュースにストローをさした。

 

縁と賞味期限

4月下旬だったか、渋谷で凡そ5年振りに後輩に会った。大学生の頃に一緒にバイトをしていた、後輩というよりも友人のような人間だ。ここ5年ほど全く連絡は取っていなかった。連絡を取ったきっかけは、なんだかLINEのタイムラインとかいう不要なところに「横浜に出てきた」というようなことが書いてあり、初めてタイムラインとかいう不要なところが仕事をしたなと思った。なんでも大学院にいって、それから就職をしたような話らしかった。

彼とは仲のいいつもりだったのだけれど、二人で飲みに行くこともなければ、軽く飯を食う以外に時間を共有したことがなかったと思った。いつもはもう一人同僚がいて、それでうまく回っていたのだった。複数で行動するときによくある現象だ。

こうなると随分時間の空いたのもあって、無闇に強張り気持ちに暗い影を落とすのを感じた。話す内容をいくつか用意して、それでつまらなかったらいよいよ帰ってしまおうくらいに考えていた。そうなるといつも僕はつまらない決意を思って、しかし酒が入ると楽しくなってしまってそんな一種乾いた感情のこともしっとり忘れるのだった。

 

当日、彼も、そしてもちろん僕もそうなのだけど、学生の頃に比べて髪が短くなっていて、ギリギリお互いを認識できたくらいに、薄ぼんやりとしか覚えていなかった。少しの年月の寂しさを思った。

後輩が今年就職したことを思いだし、飲んだときに祝辞よりも先に「おい、御社に年上豊満美女はいねーのか」と恫喝したところ、呆れ顔で「そういう人はもう相手がいるし、そもそも年上どうこうとか言ってる場合ですかおい」と逆に言葉の暴力を振るわれた。本当に手加減を知らない。社会人としてあるまじき配慮のなさである。まだアラサーに片足の爪先を突っ込んだだけじゃないか。

半べそで加えて「”許すことは人生の贅沢であり娯楽だ”みたいなことを誰かが言っていたけど、優しさも同義の部分があると思うのだよ」とほぼ酩酊した僕はしち面倒くさく話しかけた。お互い出来上がっているのでよいのだ。

 

この世の中で一番贅沢な娯楽は、誰かを許すことだ。

伊坂幸太郎「魔王」

 

彼はなにか頭の中を探しながら、しかしまっすぐに僕を見据えて「……鈴木さんは優しいですけど、優しいというか、あぁ、自己満ですよね」と見つけた解を言い終えると満足げに日本酒をあおった。「なんだ、久し振りだというのに随分じゃないか」と笑うと、「僕たちはいつもこうだったじゃないですか」と笑い返してきた。なるほど確かに、その節はあるかもしれない。

優しさってのは「相手のために」が押し付けがましくなったら終わりだ。それは優しさではなく偽善だ。したいからするというスタンスでいいんじゃないだろうか。と声に出さずに自分を肯定する。

 

僕が5年も連絡のなかったことをからかうと「切れたと思ってて」とはにかんだ。面白いと思った。僕はここ数年、人間関係には賞味期限があると思っていたのだけれど、なるほどどうして。「縁が切れる」という表現もある。つまり、縁は賞味期限なのではないか?という等式が頭をよぎる。

 

そもそも、出不精で面倒臭がりな僕がわざわざ彼に連絡を取って飲みに誘ったのは、単なる懐かしさや興味本位などではなく。もちろんそれもあるのだけれど。バイトを辞めるときに寄せ書きのようなものをもらって、それがいつまでも頭から離れないからだ。

その寄せ書きには一人一人の嬉しい言葉がたくさん書いてあった。嬉しい言葉だけでなく面白いことも書かれてあって、人のことを、あまつさえ先輩を一言で表して「ヘビ」だの「太鼓持ち」だのと宣ったり、それは親しい人の許される表現で、とにかく僕にとっては思い入れがあった。そして彼の頁は曰く「(前略)関係をこれで終わらせたくないです」と書かれていて、嬉しさと小っ恥ずかしさのない混ぜになったものをいつまでも感じていたのを思い出した。この正直さが僕の胸をいつまでも打っていた。

 

大丈夫、大丈夫。まだ切れてない。君と僕との賞味期限はまだまだ先らしい。と独り言ちして、次の約束をして別れたのだった。

 

方方見聞録・兵庫&鳥取2

前回

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おいおい、どうなっていやがるんだ。まったく、驚いたよ。遠い、鳥取は遠いんだ。君が想像するよりもね。姫路から2時間くらいだったかな。鳥取駅に着いたのは21時頃だったんだけど、周りには思いの外街灯がなかったよ。そんなに大きくない駅構内は、人がいないし、それに併設された土産屋らしき店舗は既にシャッターが降りているから、大きさ以上の広さが感じられたね。おかげで北口と南口、どちらにでも問題なくいけた。都会は人がたくさんいて疲れちゃうから、ちょうどよかった。なんだか田舎を思い出したよ。

そして静かな駅を見渡して僕は思った。これは面白いところに来たな、と。観光地っていうのは人がたくさんいる。東京、京都、大阪なんかは特に。都会ばかり、観光地ばかり行くのだけが旅行じゃない、そうだろ?観光地に行くだけじゃなくてさ、例えばその土地のなんでもないスーパーに入ってみるみたいなさ、そういう「自分は体験しなかった日常生活」を体験する、ってものいいものじゃないか。

それに旅行っていうのは自分探しも兼ねてるからね。アラサーに右半身をピタッと突っ込んだ状態だけど、人間ってそうじゃないか。おっと、その齢になってまだ見つけていないのか、みたいなことは言いっこなしだ。どこから来て、どこへ行くのか。自分は何者なのか。そういうのを一生かけて見つけることじゃないか、人生って。そして旅はその答えを教えてくれるじゃないか。手がかりになってくれるじゃないか。いや、違うな。違ったかも。

 

翌朝、ホテルから出ると少し肌寒くてね、僕はその時クールビズ。とてもじゃないけど、そのままでは耐えられそうになくて。西側というのは暑いものだと思っていたから油断していたよ。薄手のものを買おうと思ったんだけど、近くのビルにもイオンにも残念ながら服を売っているところを見つけられなくて、更に残念なことに貴重な午前を収穫のないまま消費してしまったよ。まったく無駄な過ごし方だったね。観光に来てスーパーに入るなんて、我ながら無意味な時間の使い方だと思う。

 

午後からスナバコーヒーに行って、そこから砂の美術館に行ったよ。この砂の美術館というところは、以前人に教えてもらったんだけど、これがすごくてね。

 

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わかるかな、 これが全部砂でできているんだ。このときはアメリカ編だったみたいでさ、それで自由の女神ってわけさ。そしてそびえる摩天楼。

 

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ハリウッドですね。マリリンモンローがププッピドゥしちゃってますね。

 

ほかにもゴールドラッシュの様子から、ナイアガラの滝やラシュモア公園の岩壁に彫られた4人の大統領の顔なんかもあって、それらの解説を読みながら進むと勉強にもなる素晴らしい場所だったよ。時代背景を考えながら見ていくと、見方が変わってくるっていうかね。

 

 そのあとはすぐ近くの鳥取砂丘に行ったよ。この頃には小雨が降っていた朝と打って変わって、空が晴れ渡っていて非常に気持ちがよかった。

 

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鳥取砂丘。見渡す限り砂、砂そして砂。

 

写真ではスケール感を伝えられないのが非常に残念なんだけど、日本とは思えなかったくらい未知の景色というか。さらさらの砂が、ただひたすらにどこまでも続いていく 。なんだか立っているだけで喉が乾いてくるっていうかさ。

スーツの人はまったくいなくて、みんなサンダル。僕はデキる会社員だからね。もちろんスーツさ。靴の中がジャッリジャリになったよ。地味に精神にキたね。でもそれだけ。残念ながら、そんなに面白いことは起こらなかったよ。

 

 

鳥取をあとにして、兵庫の城崎温泉に。ここは”外湯”というシステムがあって、宿の外にも温泉があるんだけど、たくさんの温泉を楽しめるって優れものでさ。難点は温度が少し高くて長湯できないことかな。

川が流れて、柳が風に揺れている。静かな街にカランコロンと下駄の音。非常に情緒的なんだけどね、僕が宿から出てきたら、なんていうんだろう、たくさんの浴衣の男女がひっついては楽しげなのを見るとね、どうしてかここを滅ぼさなきゃいけないという天の声が聞こえてきそうでね。もし僕が強大な力を持って、以って魔王をやるんだったらまずはこの一帯を滅ぼすだろうね。頭の隅を『こんな気持ちになるなら来なきゃよかったな』『湯上りの浴衣の女の子なんて最高じゃないか』『寂しいも楽しいも気のせいだ』という感情が反復横とびしていたよ。外湯もとても混んでいて、ニンゲンという猿が芋洗い状態でさ。あれには閉口だったね。

まあそんな気持ちで宿に帰ったらさ、少し笑ってしまうようなことがあってね。

 

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どうだろう、この寂しい修学旅行みたいな状況。たまらないだろ?笑ったあと少し泣いたね。

 

まああとは飲み足りない気持ちを抑えて、翌日お土産を漁りながら6時間かけて東京に帰ってきたって話さ。お土産をもらってくれる人たちがいるのが唯一の救いだったかな。来月も研修があるので、今度はどこに行こうかな。温泉は絶対行かない。