よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

擬春

年末年始、秋田に帰省した。それからひと月経った。今の秋田にはあまり雪が積もっていないようだが、年末の新幹線を遅らせるほどの寒波には辟易とした。それでも、雪が吹いて曇り空という組み合わせに秋田らしいと思ったりした。

年始に戻ってくると東京は驚くほど暖かく、2月になった今では散ってしまったが、冬だというのに未だに銀杏が黄葉していた。空は青く。木々にも緑があり、椿が赤々と咲いている。空気が乾燥していて、喉どころか瞬きがつらいほど目が痛くなる。洗顔したあとには顔が破れるのではないかと思うときもある。躰が痒くて仕方がなくなったりする。雪のためか湿度が高く、雪化粧した景色から考えると、随分と遠くまで来たものだと思う。

帰省の際に使ったキャリーバッグのローラーを拭くと、くすんだ色の雑巾が筋っぽく黒くなった。中学生の頃に買ってもらったはずのキャリーバッグは車輪が2つしかなく、音がひどくうるさい。長い間使っているわりには傷も少なく汚れていない。僕はランドセルも誰かにあげられるくらい綺麗に使っていたし、なんとなく自分らしいと思った。部屋の中で荷を解くと、中から湿度の高いにおいがほのかにして、自分のにおいでない服にちょっと変な違和感のようなものを抱く。どうやら実家を持ち帰ってきたらしい。

 

帰省した影響か、今年はよく自炊をしている。なんでもかんでもフライパンでやたらめったらに炒めている。食材を買うためスーパーに寄ると、白く小さい花が売ってあった。柔らかくて可愛らしい。カスミソウのようだったが、オンシジュームと書いてあった。これからまた寒くなるのだろうに、その上の段に梅の枝がひとつ売られてあった。細い枝に蕾をつけ、薄紅色の花を幾つか咲かせていた。近寄っていくと啓翁桜とあった。これくらいの時期が一番寒くなるだろうに。しかし気づけば今日は節分で、明日は暦の上で立春なのだそうだ。

梅を通り越して、桜。早咲きとはいえ、そういうものなのだろうか。どうやらもう春らしい。