よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

出でよ二つ名

男とは二つ名がほしい生き物である。これは若かろうが年を取ろうが変わらない事実だ。二つ名とは、本名以外の別名・異名、あるいは代名詞的なものと捉えてもらうといいだろう。

有名なものでいくと、『鋼の錬金術師』だ。この漫画は二つ名のオンパレードである。主人公のエドワード・エルリックは周囲から「鋼の」と呼ばれる。錬金術師が何人いようと、「鋼の」と言ったらエドであり、他の者は鋼足り得ない。全身鋼でできているキャラクターが出てこようとも、「鋼=エドワード・エルリック」。二つ名とはアイデンティティの確立であり矜持である。

もう一つ例を挙げると、ルパンなら『神出鬼没の大泥棒』だろうか。やはり異名というのは格好いいものである。そして端的に人物を表現している。むしろ格好いいものだけが二つ名となりうるのだ。これが『錆びた錬金術師』あるいは『計画なきコソ泥』だったらどれほど不名誉なことだろう。ただの悪口もいいところだ。

そう思うと、野球で『大魔神』と言えば佐々木だ。人を超越してしまった。野球をしているのに、魔神である。人類VS魔神。契約金は若い娘の命。できれば人類には頑張っていただきたい。負けたら多分滅ぼされてしまうから。

更に言うと、『安打製造機』ことイチローは、安打製造機だけでなくイチロー自体が二つ名であると同時に個であるという特殊性がある。ずば抜けると二つ名も凌駕してしまうということか。僕も概念になりたい。

 

こんな私にもふたつ名があった。まだうら若き新入社員の頃、『東北一のレシーバー』と呼ばれていた。ちゃんとダサい。これは恥ずべき方の二つ名だ。『計画なきコソ泥』のほうである。私自身東北出身だから、東北一というのはまあ由来がある。それ自体はむしろいい。問題はレシーバーだ。

これは話を拾う上手さとのことだった。話すのが得意でない分、どこからでも話を膨らまそうと努力していたことがあって、それが起因しているようだ。一見褒められているようで完全にバカにされている。やつらは『レシーバー』と言ったあと、必ずニヤついていた。エンタ芸人扱い。なにが同期だ。

 

余談になるが、本来私はツッコミだ。『お前はツッコミで入社したんだから、ツッコミをサボるな』としばしば言われる。手前味噌だが、最近手応えのあったツッコミは、作成した資料に「ここ違う、ここも」と丸を付けられ直されている後輩に

「優秀な答案くらい丸付いてるけど大丈夫か!?」

である。……瞬発力を必要とする笑いは、時間が経つほど面白さが半減するのがお分かりいただけただろうか。言っていて恥ずかしくなってきた。ツッコミを改めて説明するなんて無粋にもほどがある。つまらない。その場ではそこそこウケたんだ。助けてくれ。お読者様の中にレシーバー様がいらっしゃっても、絶対に拾わないでください。