よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

桜応募券にて

数日暖かい日が続いたためか、桜がいつの間にやら咲いている。団子のようにわさわさと集合したように咲いている。もう随分春だ。すこぶる眠い。私の田舎では、桜が咲くのは4月末頃になる。そのために卒業や入社のような、節目の桜に違和感を感じ続けている。未だに3月の桜になれない。入学式の桜に混乱してしまう。6年目にして、ようやく理解した。たぶん、一生慣れることはないのだろう。鈍感になっていくことの別称を慣れと言うのだろうか。

水曜日の天気は雪だった。せっかくの祝日なのに、冷たい風が吹いていた。久し振りにダウンを着た。春、と思った矢先のことだった。友人と凍えながら酒を買いに行って、逃げるように友人宅に転がり込んだ。ちょっといいウイスキーをボトルキープとして置いてきた。電車は空いていて、楽に座れた。桜はほとんど散らなかった。

そうかと思えば、金曜日の社用車内はすっかり夏だった。空気が揺らめいていた。暑さのために、額から汗を流した。窓を開ければ幾分涼しい風が入ってきたが、花粉が怖くて締め切ったままにした。ちょっとだけエアコンを使って、夏に拍車がかかった。

 

今年、大学を卒業した人が、卒業式では泣かなかったのに、式の後の集まりでみんなと別れたときに号泣してしまった。と言った。実感の伴う、よい感性だと思った。さよならのときにやっとみんなを好きになる。という言葉を思い出した。自分の卒業を思い出す。僕は泣かなかったけど、春休みに不意に寂しくなっていた。

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「変身のニュース(赤星くん)」ー宮崎夏次系

 

卒業式では、その人は何やら表彰されていた。それを見て、驚いて、僕は何をしたわけでもないのに、なんだか泣きそうになって、そのあと自分の感情の変化に笑いそうになるのをじっとこらえていた。表彰されるのを黙っているなんて、悪いやつだと思った。粋だとも思った。

 

通勤途中、会社の前の桜を見ながら、桜の花びらが落ちる前に10枚掴めると願いが叶う。と誰かが言ったことを思い出した。僕の知っていたのは、1枚で願いが叶うだったのにノルマが増えてしまった。10枚一口の懸賞のようで、馬鹿馬鹿しくてよい。

会社近くの商店街の通りに、今年も提灯が灯った。桜も提灯も目を引くほどでもないのだけれど、その控えめな光景にいつも心を奪われる。提灯の明かりはLEDと違って、輪郭の曖昧で美しい。不思議と気分が高揚し、笑えてしまうので、上がった口角を手で隠す。花見で酔っ払いが大量発生する気持ちが少しわかる。花弁を10枚集めてなにを願おう。