よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

尊厳と帰路

一日中会社のパソコンに向かっていたからか、首筋から目の奥にかけてが凝り固まっている。俯いて横を見るたびに首の筋がゴリゴリと何かに当たって痛むのが少しおもしろい。温めたり伸ばしたりすれば治るだろうか。何度も会社を抜け出してサボったはずなのにどうしてこんなことになるのか。

ぼんやりとした頭を抱え、大量に飲んだコーヒーの利尿作用が怖くなって繰り返しトイレに行く。社用車で家に帰る。好きだった運転はいつからか面倒になり、時間も長く感じられるようになってしまった。コーヒーの強力な利尿作用のために、車の中でペットボトルを手にしては人間の尊厳を失いそうになったことが何度かある。首都高にはSAなどほとんどないので、何度か叫んだ記憶もある。これでもまだ尊厳はギリギリ持っているつもりだ。

車内で流したい曲もなく、iPodをランダム再生のままスピーカーに接続する。並走していた車が無理矢理に車線変更をしてきて、驚きと恐怖心からくる苛立ちを感じる。家への一本道は、何度も迷った。家へ帰るのを何度か諦めたのち、最近やっと覚えられた。

スピーカーからは気分と合わない曲ばかり流れてくる。iPodから携帯に接続を変えると、サビの最初だけわかる曲が再生された。訳もわからず気分が高揚してそこだけを口ずさむと、静まり返っていた車内に音量の違う自分の声が響いて驚いてしまう。運転しながら意識がトリップしていたのだろうか。驚いた自分に言い訳をするように苦笑してしまう。引き籠って誰とも喋らなかった大学時分のことを不意に思いだし、自嘲的な苦笑いを重ねる。

久しぶりの赤信号で止まるとドンキホーテのでらでらと黄色い看板が発光して見える。なるほど、ドンキと略すのに、ドン.キホーテなのか。ドン。そしてキホーテか。ボス感があるが、裏社会を牛耳っているような配色ではないな。風車がお似合いだと考えていると、前の車が青信号に合わせて少し進んでいる。バックミラーを一瞥し、急いでアクセルに足をやる。

後ろの黒いBMWの車間距離が短いように思われ、怖くなって隣の車線に移ろうとすると、軽自動車が道を譲ってくれる。更に前の車が曲がったお陰ですいすいと進む。さっきのBMWは遥か後方に消え、少し気持ちがよくなる。油断したところを膀胱が膨らみはじめる。

時間帯が遅かったためか、車は順調に進んだ。電車よりも早く着いたはずなのに、ぐったりした気分で家に転がり込んで明日の目覚ましをセットする。水を飲んで、トイレに行きたかったことを思い出す。今日も人間の尊厳を失わなかった。ペットボトルは今日も空。