よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

気付けスズキ

スズキは激怒した。必ず、かの無為徒食の冷凍庫を働かさねばならぬと決意した。スズキにはほぼ何もわからぬ。偏差値もIQも20くらいだ。スズキは、都のカイシャインである。法螺を吹き、なにとも遊ばず一人ひっそり暮らしてきた。けれども残業に対しては、人一倍に敏感であった。昨年末の夕方、スズキは都を出発し、新幹線で野を越え山越え、百里はなれた此のセンダイの市にやってきた。スズキには、不可解だが、彼女も女房も、不倫相手の年上豊満美女も無い。おかしい。一人っ子なので空想の内気な姉と二人暮らしだ。この姉は、町の或る律儀はコームインを、近々、花婿として迎える予定などなく、スズキと結婚すると言って聞かない可愛いやつだ。結婚式も間近なのである。

そんなことばかり言って、スズキはそれゆえ、実家への強制送還を余儀なくされた。そして帰省がてらご機嫌取りのお土産を買うために、はるばるセンダイの市にやってきたのだ。先ず、その品々を買い集め、それからセンダイのペデストリアンデッキをぶらぶら歩いた。スズキには竹馬の友があった。イトヌンティウスである。今は此のセンダイの市で、インセイをしている。スズキはカイシャインになって5年経とうというのに、こいつはいつまでも学生をしている。いい加減にしろ。人生の3割を学生している。ちなみにあとの7割は水だそうだ。

その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。2ヶ月遭わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

 

スズキは、イトヌンティウス家について少し経ったのち、冷凍庫の様子を怪しく思った。昨日、飲んだ帰りに買ったみんなのハーゲンダッツが、柔らかくなっている。鈍感なスズキもだんだん不安になってきた。家主をつかまえようとしたが、二人とも帰省していたので、スズキは一人二役やることを買ってでた。スズキは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「冷凍庫は、物を冷やしません。」

「なぜ冷やさんのだ。」

「電圧が足りていない、というのですが、今まで動いていたので、そんなはずはありませぬ。」

「まったく冷やさんのか。」

「はい、ハーゲンダッツをはじめ、ほとんど冷気もでては居りませぬ。」

「おどろいた。冷凍庫は故障か。」

「いいえ、故障どころではございませぬ。」

 

 冷凍庫に入れたアイスの王、アイスの王、ハーゲンダッツ皇帝は、何やら中年太りかのごとく、その身体をぶよぶよにしていた。なんたる体たらく!しかし環境がそうしたのか、情けないお姿は何時間経っても戻る気配がなかった。

スズキは処置を聞くために住人の元に走ることもなく、「そういう冷凍庫なのだろう。変わったやつらだ。」と思い、放置してしまった。

スズキは、後日会ったイトヌンティウスに、ストーブが弱いために寒くてかなわんと腕に唸りをつけて頬を殴った。

「実家に帰れないと言ったお前を助けたのは誰だと思っている。」

そういってイトヌンティウスは居酒屋一ぱいに鳴り響くほど音高くスズキの右頬を殴った。

 

愚者はひどく赤面した。