よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

暗くない太宰治3選

以前、友人が太宰治の『斜陽』を読み返したと言っていたのを不意に思い出した。昔は難しくてよくわからなかったが、読み返してみるといいものだったと言っていた。他の人の話を聞いても、やはり太宰は難しそう、暗い作品が多そう。という意見も多い。

新型コロナの影響で外出自粛になって、最初はやることがあったからいいもののそろそろ家も飽きてきたなんて人も多いかと思われる。そこで今回は、「暗くない太宰」からいくつかおすすめをしてみたい。インターネット的に言うならば

【必読】暗くない太宰3選

とでもいった感じだろうか。なんだか少し違う気もするが。

 

1.御伽草子

冒頭、子供に絵本を読み聞かせる父親の描写があり、次のように続く。『この父は(中略)元来ただものではないのである。物語を創作するというまことに奇異なる術を体得している男なのだ。(中略)その胸中には、またおのずから別個の物語が醞醸せられているのである。』という、強気の前振りから話は始まる。ここまで強気に来て大丈夫なものかと少し心配にもなるのだが、読後は完敗したと言えるような面白さである。

内容は瘤取り、浦島さん、カチカチ山、舌切雀となっており、私は浦島さんの描写の美しさに感嘆した。

 

2.ろまん灯籠

小説好きの五人兄妹が話を繋いでいくのだが、一人一人の性格がはっきりと掴めるような立体的な内容。(確かにこの性格ならこの語り口だよな)と終始納得させられる。容貌までも目に浮かんでくる。あるいは身近な人の顔が浮かんできたり、誰かに自分を重ねたりしてしまう。そして読みながら作者はどうしてこんなに精密に書き分けられるのだろうかと溜め息が出てしまう。

 

3.トカトントン

私はこれを読んで以来、勝手に『トカトントン病』あるいは『突発的虚無症』と呼んでいる状態がある。往復書簡のような構造なのだが、乱暴な要約をすると「好きなあの子に熱を上げていても、仕事に没頭しても、あるいは創作活動に熱中していても、『トカトントン』という音が聞こえてきて、そうなるともうすべてがまったくどうでもよくなってしまうのです」というもの。誰しも一度は経験したことがある状態ではないだろうか。本人には悲劇でも、他人から見ると喜劇のような、そんな話。

 

いかがでしたか?

みたいな感じでまとめるとインターネット的?テレビもネットも暗い話や誰かが怒っている話が多いので、暗くない読書でもどうでしょう。誰かの気晴らしの一助になれればありがたいです。読んだことない方も、一度読んで以来本棚に差しっぱなしの方も宜しければ。