よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

ある同級生への献文・中

da-shinta.hatenablog.com

続き

 

資格試験に必要な卒業証明書を受け取りに行った先で手持ち無沙汰だった僕は、いよいよ好奇心に負けてSNSを覗いてしまった。この行為について君になじられるのは構わないが、この誘惑に負けない自信があるのならば、というのは身勝手なお願いだろうか。また、これによって最も傷付いたのも僕であることは言うまでもない。

その時僕は密かに期待していた。瞬間見せるKの距離のある姿勢や態度に一方的に踏み込めるのではないかという欲望だ。女々しいことを認めるならば、恥ずかしい話うまくいっていたはずなのに僕はどこか不安だったのかもしれない。

携帯の画面には、Kのよそ行きの人懐こさを表す文が、そして更に読み進めると信じがたいことに卑猥な画像、表現が膨大に書かれていた。そこで直感した。ああ、嫌な予感が当たってしまったのだと!

Kの下着姿や、裸の画像。軽くカールしたほのかに茶色い髪を、肌の白さを僕が見間違えるはずなかった。何度も自分に間違いだと言い聞かせたが、やはり見るたびにその縋るような希望は残念ながら真実に変わっていった。僕は出先の校舎で二度吐いた。酔ってもいないのに吐いたのは初めてで、貧血のように身体中の血液が冷たくなって倒れこみそうだった。

 

怖いものは目を瞑っていても見えるのではないだろうか。駄目だと思いながら僕は何度もKの裏アカウントを見た。ある日、KはSNSで不倫していることを独白し始めた。既婚の男性と姦通していたのだ。それは被害者ぶるどころか、どこか自慢気ですらあった。僕の中に確実に嗜虐心が芽生えた。そうでもなければ精神が保たなかったのかもしれない。

Kの裏アカウントが鍵をかけた時のために、偽のアカウントを作った。相互フォローであれば、鍵をかけられていても見られることは確認済みだった。作った偽アカウントは簡単に承認され、Kはのちにアカウントに鍵をかけた。

 

たまに話題に僕が上がった。褒められていた。なんの感慨も湧かないようになっていた。Kは教員だったから、教育委員会に告発してやろうかとも思った。意志薄弱の僕は鬼になりきれなかった。それでも目にものを見せてやりたいと思った。簡単に別れるのはどうにも面白みに欠けた。誰かに話すネタになると思った。それには少し物語が足りなかった。

会えば甘い言葉を囁いた。一方で悦ぶKを嫌悪し、地獄に落としてやろうと思った。汚らわしいと思った。平然といつも通りに接した。心ない台詞を吐くのは簡単だった。何年も前に僕は少し壊れていた。

 

僕は友人であり、Kの元彼氏に連絡をした。友人も教員となったので、仮名を先生としよう。先生に久し振りに連絡をし、あの女は最低な人間だったと告げた。最低なのは僕だった。わざわざ知らせることはないのに、復讐劇には彼が必要だった。なによりこのことを一人では抱えていられなかった。それだけのために、僕は先生を深く傷付けた。先生は僕を心配してくれた。Kが何も知らず、楽しそうにしているたびに激情にかられた。やはり、人生に劇的なことが足りていないとすら思っていたのだから。