よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

想像力と眼鏡

目が悪い。ここ数年、眼精疲労に悩まされている。仕事でパソコンを見続けているからかもしれない。あるいはそれ以外でスマホを見続けたり、本を読んだり漫画を読んだりパソコンを眺めているからかもしれない。しかしこれらは仮定の話であり、実際のところ、理由はわからない。わからないがとにかく疲れている。

コンタクトをやめ、眼鏡をかける時間が多くなった。コンタクトは目を乾燥させ、非道い頭痛を誘発することが多いからだ。コンタクトあるあるとして、一日中コンタクトを付けっぱなしにして、その日の深夜、目の奥から来るひどい頭痛に悩まされるということがある。これは吐き気すらも引き連れて来る。悪夢だ。かといって眼鏡ならならないかといえば、そう話は単純じゃない。眼鏡でも辛いような時がある。

どのくらいの症状かというと、歩くたびに足の裏から伝わって来る振動でズキズキと痛む。以前は、以前はと言っても子供の頃だが、一日中ゲームをやって目を酷使しても頭がぼうっとするだけだったのに、目が歳をとったのか、今はパソコンを1時間眺めているだけでもうごけなくなってしまう。それはまるで小さいおじさんに目の奥をやすりで削られ、まち針を間髪入れずに刺される感覚だ。このおじさんは慈悲のない哀しい見た目で、慈悲なく僕というおじさんの目の奥を痛め続ける。そのため頭痛で動けなくなってしまい、道端で立ち止まってしまうことも少なくない。僕というおじさんの中にいる小さいおじさんが視神経を攻撃している。慈悲も救いもない絵だと思う。小さいギャルだったらご褒美だったのに。神は死んだのか。

なるほど、これはもしかしたら、万が一、あるいは目を酷使したせいかもしれない。と、試しに眼鏡を外して通勤するようになって2年くらいだろうか。少しでも目を使わなければこの苦痛から解放されるはずだ、という浅知恵から。ちなみに目の体操や目の周辺を温めるのでは一向によくならないし長続きしない。やはり神は死んだのか。もしくは休暇をとってバリ島にでも行っているのか。神がいるなら、とにかくコンビニばりに休みなく稼働してほしい。僕は目を休める気が一向にないのだから。

 

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とニーチェは言った。

視力が裸眼0.1もない自意識の強い僕はそんな理由で、裸眼で生活する時間が多くなった。幸か不幸か、面白いことに見えなくなることで副次的効果を得た。誰かの視線を感じることがなくなって精神衛生上とてもいい。ということだ。

今は幾分よくなったが、学生の頃は今より非道い被害妄想のために、昼間出掛けること叶わず、多少込み合ったスーパーなどは、きっとみんな「何あれ気持ちの悪い不細工」「あの木偶の坊、よく外に出られるわね」と自分が罵られているのではないかと思い込み、幾分遅くなって人が捌けてきてからでないと外出できなかった。

ニーチェの引用では自分がそんな攻撃的な感情を人様に向けていたことの証左であるようだが、僕の場合は臆病と戦略的撤退思考ゆえであって、人にはそんな敵意を向けていないこと、賢明な貴方様には御理解いただきたい。そういえば先日の研修で、同期には度々「気付いてないのかもしれないが、口を開くと悪意が溢れでてるぞ。お前はパンドラの箱か」と言われた。『パンドラの箱』のくだりは嘘だが、喋るたびにちょっと小気味良いブラックユーモアをかましてしまっていたことには自覚がなかった。自戒したい。

 

また、視力がなくなることで電車内、あるいは駅に美女が増えた。

これは輪郭や表情がぼやけるために、想像でいいように現実を作り替えてしまっているのだろう。この素晴らしい新世界。近視の方々は、僕と会う際には是非裸眼でお願いしたい。乱視ならなお良い。どうだ、僕が西島秀俊に見えてきただろう。

美女が増えた以外には、フガフガと鼻くそを深追いし、指の第2間接まで鼻に突っ込むおっさんを見なくなったのもいい効果のひとつに挙げよう。

 

最近のゲームはグラフィックがやたらとリアルで綺麗で、主人公の自分に入り込めないという逆説的現象が起きているらしい。昔の野球ゲームは8ビットの、レゴで作ったような粗雑な野球選手を操作したらしいのだけれど、そこには確かに王選手や長島選手がいたという話を聞いて、とても面白い現象だと思った。粗さには想像の入り込む余地があるのかもしれない。

 

最近、携帯を眺め、何となく時間が過ぎていることが多い。暇に潰されている。たまには仰角5度くらいを見て、秋の雲を眺めたっていいのに。行き交う人々をなんにも考えずに見てたっていいのに。何かに追われるように読み漁って自分の世界を掘り下げることに、最近躍起になっている。たまに「筋トレもストレッチも一箇所を執拗にやるんじゃなくて全体を満遍なくやった方が効果的」という話を思い出したり。

見えなくたって面白いことがあるんだから、想像力をと思考を働かせて、視覚以外で楽しめればなあと思ったりする。金木犀は散り、もう少しで紅葉が始まる。秋の雲は速く流れる。