よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

ポカリスエットを想いながらイオンウォーターに抱かれる

急性胃腸炎から、かれこれ2ヶ月が経とうとしている。光陰矢の如しとはよく言ったものだ。全くもって時が流れるのは早い。以前母上に、急性胃腸炎になったが、なんとか無事に治った旨をお話しした際、以前に母上も患ったようで、その時には入院点滴ものだったそうだ。牡蠣など食べていないならストレスだろうから、まぁあまり溜め込まないようにという助言をいただいた。無茶を言うなよ。

加えて曰く「急性胃腸炎は1度なったらなりやすくなるから気をつけて」とのことだった。またあの痛みを体験するのか、竜よろしく白目を剥きながらケツから血を吹くのかと思うと背筋が凍った。ホワイトアイズ・レッドドラゴンはもうごめんだ。既にストレスで胃が痛くなる思いだった。

 

病床に臥す間になくなったポカリスエットの買い置きを台所下において、おかゆを備蓄した。そして思い出すに、あの頃の私は食べるのも辛く、ポカリスエットに頼りきりだった。ポカリスエット依存だった。ポカリスエットに抱かれたと言っても過言ではなかった。

こういう時、女子力の高い僕は一瞬で美女になってしまうから、「イオンウォーターに抱かれながらポカリスエットの夢を見ている」と錯覚してしまう。

 

馬鹿な話だ。

 

なんでも、水よりも体に吸収がいいポカリスエットは病気のときに、アクエリアスはスポーツ時に飲むのがいいらしい。それを知っていたし、味もポカリスエットの、ちょっとした甘ったるさが好みで、アクエリアスとの最後の思い出は中学時代の部活の休憩の合間が最後だったんじゃないかと思う。あとは母上がアクエリアスを「アクエリ」ではなく「アック」と省略することに違和感をずっと持ち続けていることくらいだった。

「アック」は異質な、違和感ある呼び方のまま、私の記憶の片隅にどっかり居座り続けた。マクドナルドを「マック」と呼ぶことに違和感を持つ関西人のそれと同じような心境なのではないだろうか。私も「マック」と呼ぶ人間なので、ここいら辺はすんなり受け入れたいところなのだが、どうにもそういかないのが人情である。

アクエリアスは「君はとっても乾くから」と言ってきた。「君の乾きのチカラになりたい」と。それでも無味乾燥な私の心は動かなかった。

 

逆にポカリはずっと私と一緒だった。風邪のとき、つまり私が弱っているときには必ず傍にいてくれた。優しく微笑んで、「大丈夫?僕が傍にいるからね」とポカリは耳元で小さくささやいてくれた。「僕は水よりも君に近いんだよ…」弱って視点が定まらない私は「あなたって、やっぱり甘いのね……」とポカリの手を握り返しながら弱く微笑んだ。それは、いつも一緒でいつでも駆けつけてくれる水よりも確かな温もりがあった。

母もポカリは「ポカリ」と言っていた。「ポカリ君、あなたにはもったいないくらいいい人ね」と。

 

そんなポカリにはイオンウォーターという弟がいた。兄よりも色素が薄く、いささか現代っ子らしいクールな印象だった。ポカリの優しさに惹かれながら、マンネリな、いつも優しすぎるポカリの姿に違和感を覚えていた自分の心に気付き、私は愕然とした。

それでもポカリは何よりも私に近かった。いつも優しかった。私は打ち明けるべきか悩んだ。優しさを裏切るまいという気持ちとは裏腹に、次第にイオンウォーターのとこが気になり始めていた。周りは口々に「あんなやつやめときなよ!」「絶対ポカリの方がいいに決まってるんだから!」と私を諌めた。それは私にもわかっていた。でも、一度気づいてしまった恋心は速度を増し、もう自分では止めることができなかった。ポカリも私の心を知ってか知らずか、少し私に遠慮するようになった。いつも何よりも近かったポカリのことだから、薄々気づいてしまったのだろう。それで身を引いてしまうポカリが許せなくて、私は反発するかのようにイオンウォーターのところへ走っていた。

 

ある夜、ベッドの上で私の手はイオンウォーターと繋がれていた。今時の低体温な手だと思った。ポカリと違って素っ気ない。ベタベタとした甘えがない。それが物足りなくも、新鮮だった。「イオンをINしてONになろうよ…」と、イオンウォーターは迫ってきた。「俺は兄さんみたいに甘やかしたりしないよ…」と言いながら私にキスをした。少し怖いと思った。実際、蓋を開けてみるとただの味気ない子供だった。イオンウォーターの底にはポカリの面影があったものの、空虚ささえ感じてしまった。その瞬間、私の脳裏をよぎったのは、優しいポカリの笑顔だった。間違いない。私の運命の人はこの人ではなかったと確信した!

 

イオンウォーターの手を振りほどいて、私はポカリの元に駆け出した。私はポカリの胸に飛び込んで泣いて謝った!ポカリは何も言わずに優しく私を抱きしめてくれた。「やっぱりあなたって甘いのね…」と涙をぬぐいながら小さく微笑んだ。

それから、私はポカリと同棲することにした。私の家には、いつも優しく微笑むポカリがいて、それだけで十分だと思った。ポカリは水より私に近い水で、私の約70%を満たしてくれた。

 

 

私とポカリの恋愛は以上です。

実際は26歳の男です。

白昼夢を見たというあなた。その感性は非常に正しいと思います。僕もまったく同じ感想です。そしてこれを書きながらポカリではなく、日本酒を飲んでいます。僕の中の『アタシ』は、割合誰にでも抱かれるようです。

 

元ネタは敬愛する上田啓太さんの真顔日記。『セブンイレブンを想いながらファミリーマートに抱かれる』です。

diary.uedakeita.net