よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

白梅香

本当に降るのだろうか。そう思いながら、赤信号の奥の空を見上げた。対象的な青に白い雲が散見された。1ヶ月振りに土曜、日曜と仕事が入ってしまった。木曜と金曜の深酒を悔いながら、土曜日の帰り道に社用車から空を眺めているとどうも降りそうにない気がした。なんでもここ最近東京で雨が降ったのは成人式のときだけで、それ以降は全く降っていないらしかった。僕の記憶だと毎日が快晴で、空の色は青と黒以外なかったのではないかと思われるほどだった。

 

年末年始に帰省した際、秋田は驚くほど晴れていた。雪がない実家での冬は初めてのことではないかと思われたが、母に聞くとどうやらそうでもないらしい。僕の記憶が甚だ曖昧なだけだろう。適当に、場当たり的に生きているから、いまいち記憶というものがない。

しかし、今年ほど晴れ渡った天気はやっぱり記憶になく、十数年生きた土地の季節が分からなくなくなっていた。社会人になって移り住んでからというもの、東京の冬が秋田の春と思われる暖かさで、四季を錯覚してしまうことはあったが、とうとう地元の冬にもついていけなくなったようだった。

晴れに少し疲れていた。しかし東京でも秋田でも晴れ続きだった。

 

日曜に仕事をしていると、昼頃にぽつりぽつりと降り始めた。屋内から見ていると雨脚は弱いようで、地面を一様に濡らしたくらいで傘を指していない人も多かった。車とは言え、雨の中を帰るのも嫌だったが、それでも少し残念がる気持ちがあった。

会社に戻って事務処理をする。申し訳程度に降っただけでは、乾燥は改善されていないようだった。帰り道、マスクをつけながら歩いていると、ふといい匂いがしたような気がした。立ち止まって辺りを見渡す。知っている小道の知らない軒先に花が咲いていた。梅だった。梅は好きだ。どうやら春が来るらしい。こちらはどうにも春が早い。