よかれと思って大惨事

感情と思考の供養

ほとんど透明のようなブルー

厚手のものはさすがに時間がかかるが、暖かくなって洗濯物がよく乾くようになった。洗濯物自体が薄手になっているのもあるかもしれない。寝巻きも少し薄手のものになった。春という季節は24℃なんて暑いものだったかしら。毎年夏みたいな春に辟易とする。

風呂上がりに干したてのタオルに顔をうずめると、なにやら梅雨のようというか雑巾のような嫌な臭いがする。寒い時期に洗濯をして乾かなかったためだろうか。それとも花粉のせいだろうか。少し鼻がムズムズして、目が痒くなった。

乾燥機がほしいと切実に思いながら、Amazonでの買い物ついでにバスタオルを見てみる。なるほど、大きさや厚さがよくわからない。今治タオルがいいのはわかるが、風呂に入ったとはいえ薄汚れた自分の身体を拭くのに、そんないいものである必要はあるだろうか。さすがに過剰スペックというもののように思えて気がひける。それに厚ければまた同じように、それこそ梅雨あたりにカビ臭いバスタオルが生まれてしまう気がして。

 

Amazonからの段ボールには、そこそこ安い3枚入りのタオルが入っている。楽しみにしていたものの、いざ手元に届いてみると少し心許ない薄さだった。使っているものの半分くらいで、思いっきり引っ張ったら千切れてしまいそうだった。厚い方がよかったと上手に後悔をして、気休めに(薄手は乾きやすい)と繰り返す。

タオルの注意書きを見ていると、初めは細かい毛が出るということと、ほつれた部分は引っ張らずにハサミで切ること。そして、色移りに注意と書かれていた。僕はこの、色移りに注意という文句にいつもドキドキしてしまう。

 

5年前の、或る風景を思い出す。僕は5階にある人の家で、綺麗な、透明感のある薄水色のブラウスに目を奪われていた。カーテンレールにかかったそれを見ながら、綺麗な色だね。と言おうとすると、その人はタオルが色移りしてさ。なかなかいい色でしょ。と少し満足げに言った。僕はその色をとても羨ましく思った。色移りが良いことだなんて、初めてだった。その人の家のベランダで煙草を喫んで眼下の夜を見渡した。たくさんの色があるのに、どれよりも鮮やかなものだった。

 

期待して、新しく届いたタオルと白いYシャツを洗濯する。ひとつひとつハンガーにかけて干しても、Yシャツは白いままだった。僕はどんな色移りにも出くわしたことがない。Yシャツは 夜の底の端を白くした。